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リプシッツ夫妻:モディリアーニの肖像画




ジャック・リプシッツはリトアニア生まれの彫刻家で、モディリアーニとは彫刻家仲間として知り合ったと思われる。1916年にベルトと結婚したリプシッツは、結婚記念としてモディリアーニに絵を描いてもらうように依頼した。その結果出来上がったのがこの絵である。微笑ましくポーズをとる男女の姿が、まさに結婚記念写真を思わせるようである。

リプシッツの後年の回想によれば、モディリアーニは快く引き受けてくれ、謝礼として一日につき10フランとアルコールを少々要求した。そして次の日リプシッツの家にやって来ると、準備のための大量のスケッチを、恐ろしいスピードと正確さでこなした。こうして構図を決定したうえで、その次の日に古いキャンバスを一枚と絵の道具を持ってやってきた。

モディリアーニは、キャンバスの前に置いた椅子に座り、静かに仕事をしながら、その合間にアルコールをぐびりと飲んでは仕事を中断した。しかし、それにもかかわらず、作品は猛スピードで出来上がった。午後の一時に描き始めたのに、その日の夕方には完成したのだった。

この回想も、モディリアーニが酒におぼれていたという伝説を裏書きしているようだ。それでも、モディリアーニが酒を飲んでも、決して飲まれなかったことは、短時間でこのような絵を完成させたことにあらわれている。結局彼は一日分の謝礼を受け取っただけで帰って行った。

リプシッツ夫妻がこの絵に満足したことは疑いない。

(1916年、キャンバスに油彩、80.2×53.5cm、シカゴ、アート・インスティテュート)





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