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横たわる裸婦:モディリアーニの裸体画




1917年の12月に、モディリアーニは最初でかつ最後となる個展を開くことになった。会場はオペラ座近くにあるベルト・ヴェーユの画廊だった。ヴェーユは当時有名な画商であったが、そこに目をつけたズボロフスキーが、ヴェーユの力を借りてモディリアーニの売り込みを図ったのだと言われる。この個展には、その年を通じてモディリアーニが描いてきた多くの裸婦像が展示された。

ところがそれが災いした。というのも、ヴェーユの画廊は警察署のすぐ近くにあって、個展の展示物が警官たちの眼にも触れやすかったのだ。ヴェーユは早速警察署に呼び出され、展示物をすぐに撤去するように命令された。ヴェーユがその理由を聞くと、警官はこう答えた。「あの裸の女たちときたら、恥毛をつけておる」

ここには猥褻観念に関する当時のフランスの警察の見方が反映されているといえようが、それはともかく、モディリアーニの折角の個展は、商売としては失敗してしまった。だが、このことで、奔放なボヘミアンという、モディリアーニに纏わっていたイメージが更に拡大されることとなった。モディリアーニは女の裸体画ばかり描いたわけではなく、むしろモディリアーニにとって周辺的な位置づけだったのに、まるで裸体画こそモディリアーニの精髄だというような見方が流布することともなった。

モディリアーニの裸体画が、単に女の肉体を美しく描くことだけにこだわったものでないことは、それらを一瞥するだけで明らかだろう。モディリアーニの裸婦たちには、ある精神的なものが感じられるのである。

(1917年、キャンバスに油彩、60×92cm、シュトゥットガルト、州立美術館)


(1917年のモディリアーニ個展のポスター)





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