壺齋散人の 美術批評
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声:ムンクの不安





「声」と題するこの絵は、森の中で、月光を反射した湖を背後にして立つ女性を描いたもの。この絵の特徴は、モチーフの女性が朦朧としたイメージになっていることと、それに対比して背景が強い色価で描かれていることだ。主な目的は神秘的な風景を描くことで、女性はその神秘性を目出させる為の小道具だといわんばかりである。

画面のほぼ半ばを横ぎるあかるい帯は、湖の岸辺である。その向こう側に湖の水面が広がり、そこに月光が影を落としている。光源である月が見えないために、ちょっと見た目には、これが月影だとはわからない。

構図的には、女性とその周りの木立の垂直線と、湖の岸辺の水平線とを交差させることでバランスをとっている。色彩的には、ブルー系の寒色をベースにして、木肌や女性の髪にオレンジ系の暖色を添えてアクセントにしている。全体としては、寒色が勝った陰鬱な感じの絵といえる。やはり精神性を強調しようとする意思が、そうさせたのだと思う。

女性は、両腕を背後で組み、胸を突き出している。ムンクの描く男は、だいたいうなだれているケースが多いのだが、女性はこのように胸を張っているものが多い。胸だけでなく、顔も上向きにし、顎を突き上げているように見える。



これは、「月光」と題する絵。上の絵から、女性を除き、風景だけを描いたものだ。この絵と、上の絵を見比べることで、上の絵の意図がいっそうよくわかるようになる。

(1893年 カンヴァスに油彩 88×110cm オスロ ムンク美術館)




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