壺齋散人の 美術批評
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生命のダンス:ムンク





「生命のダンス」と題するこの絵は、「生命のフリーズ」の最後を飾る大作である。題名から生命を謳歌するように思え、また一見してそういう印象が伝わってこないでもないが、「生命のフリーズ」のほかの作品同様に、かなり屈折した思いがこの絵にも込められているようだ。

ムンク自身、牧師と髪を無造作にたらした若い女が踊っている周辺で、人々が狂ったように踊っていると言っているように、この絵は人々の狂乱をテーマにしたものだと考えられなくはない。また、男女の左右に控えている二人の女性についても、ネガティブな解釈が成り立つ。左手の女性は手を差し伸べて愛への希望を現わしているように見えるが、右手の女性は、若い男女に対して嫉妬をしているとも見える。そうだとしたら、この絵の中でムンクは、女性の三面相を表現したのだとも受け取れる。女性は複雑な生き物だ、というのがムンクの日頃のいつわらない気持であり、そうした気持をこの絵の中に盛り込むことで、人間の感情の暗い部分を取り上げた「生命のフリーズ」のほかの作品との調和を図ったといえなくもない。

舞台は、当時ムンクが住んでいたノルウェー南海岸のオースゴードストランの海岸だと思われる。その海の水面に、夕日が影を落としているが、この影は「声」や「月光」におけるのと同じパターンで描かれている。



これは「女の三段階」を現わしたリトグラフ。真ん中にはエロティックな女ざかりの姿、それを囲んで無関心とか嫉妬を表現し、女の複雑さを訴えているというふうに伝わってくる。ムンクはこのテーマで何枚か作品を作っている。

(1900年 カンヴァスに油彩 125.5×190.5cm オスロ国立美術館)





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