壺齋散人の 美術批評
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水浴する男たち:ムンク





ムンクの作風は1907年ごろに変化した。「マラーの死」はその魁である。その絵は、暗い題材をテーマにしているにかかわらず、画面は明るく、筆致ものびのびとしている。それまでの陰鬱な画面作りからの、百八十度といってよいような転換振りである。

「水浴する男たち」と題するこの絵も、その延長上にあるものだ。こうした明るい画面作りは、後期のムンクの基本的な姿勢となる。この変化の背景には、トゥラから全面的に解放されたことと、重いアルコール中毒から立ち直ったことが影響していると指摘されている。(ムンクは1908年に精神病院でアルコール中毒症の治療をした)

男たちの群像を描くのは、女を中心にしてテーマ設定をしてきたムンクとしては、大きな転換となるものだ。それにはキルヒナーら「ブリュッケ」の連中の影響があったらしい。「ブリュッケ」の画家たちは、男の美しさを始めて絵画の中に持ち込んだのだが、それにムンクも感化されたということらしい。

ノルウェーの海岸で海水浴をする男たち。彼らはすべて裸である。女たちの姿は、すくなくとも前景には一人も見えない。これは現実の光景ではなく、ムンクが作り上げた虚構であろう。この虚構を通じてムンクは、男の身体の美を強調したわけだ。といっても、彼にはゲイの傾向はなかったようだ。

(1908年 カンヴァスに油彩 206×227cm ヘルシンキ アテナイオン美術館)




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