壺齋散人の 美術批評
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歩きはじめ:ピカソ、子どもを描く




「歩きはじめ(Les premiers pas)」と題したこの絵は、ナチス占領下のパリで描かれた。モデルになっているのは、当時ピカソのアトリエで家政婦を勤めていたイネス・サシエと彼女が生んだ子どもジラールだ。

イネスはスペイン人で、1938年ごろピカソと知り合い、結婚後の1942年にピカソの家政婦になった。そして子供が生まれると、自分と子供が一緒にいるところを描いて欲しいとピカソにねだった。ピカソはその願いを快く受け入れ、何点かの絵を描いてやった。それらはあたかも、マリアとキリストの聖母子像を連想させるようなものだった。

この絵では、母親は子どもを抱きかかえるのではなく、よちよち歩きを始めた子供の背後から手を差し伸べ、子どもが無事に足を踏み出せるように励ましている。この母子を見つめるピカソの視線を、我々も感じとれるようだ。

(1943年、キャンバスに油彩、130.2×97.1cm、イェール大学付属美術館)





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