壺齋散人の 美術批評
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赤鼻の道化師:ルオーの世界





「赤鼻の道化師」と題するこの絵は、1906年ごろに描いたものを、1925年ごろから28年ごろにかけて描きなおしたものだ。原型がどうだったか、伺いしれないが、おそらく構図はそのままで、色彩がかなり暗かったのだと思われる。それをルオーは、色彩を中心に描きなおした。その結果、コントラストの激しい、このような形に収まった。

この描きなおしに数年かかったことには、ルオーなりの事情があったのだと思う。1925年といえば、前稿で述べたように、ルノーが自分の最終的なスタイルを確立した年である。そこで、新しい境地から古い作品を見直した時に、そこに修正すべき動機を感じて修正に取りかかった。画家にはよくあることだ。そのよくあることでも、ルオーにとって時間を要したのは、古いスタイルと新しいスタイルとの間に、さっぱりと線を引いて、古いスタイルをさっさと脱ぎ棄てる、というのが、思ったほどに簡単ではなかったのではないか。

この作品が古い作品の描きなおしだということは、絵具を何度も厚く塗り重ねたらしいことに伺える。とくに背景には何度も筆を重ねたあとが見える。ルオーは結局、背景を単純に塗りつぶす一方、道化の姿を浮かび上がらせることで、画面を明るく演出しようとしたのではないか。

ルオーの人物は、多くが正面を向いており、長くて大きな鼻がポイントになっているが、この絵の中の道化は横向きで、視線をちらりとこちらに向けている。後期のルオーの絵には珍しいポーズなので、これは元になる絵がずっと以前にできていたことを伺わせる。口をやや開き気味にしているのも、後期の作品には珍しいところだ。

(カンヴァスに油彩 75×52㎝ 日本、ブリジストン美術館)





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