壺齋散人の 美術批評
HOMEブログ本館東京を描く水彩画ブレイク詩集フランス文学西洋哲学プロフィールBBS


傷ついた道化師:ルオーの世界





「傷ついた道化師」と題するこの絵は、「小さな家族」と同じく1932年に描かれた。この絵にも、親子らしい三人の道化が出てくる。真ん中にいる母親らしいものが、傷ついたのだろう。それを夫らしい右側の男と、子どもらしい左側の少年が気遣っている。

男は女をやさしくいたわり、子供はそれを不安そうな表情で見守っている。女はおそらく大きなけがをしたのだろう。歩いているところからそうではないと言えなくもないが、絵の雰囲気からすれば、大きなけがをしたと思いたくなる。そのけがは、サーカスの演技、たとえばアクロバットに失敗したせいかもしれない。

そんなふうに、見る者をして想像せしむるところがこの絵にはある。そのように想像させるのが、ルオーがこの絵にこめた意図だったのかもしれない。ルオーには、絵を通じてなにかを人に訴えかけるようなところもある。

三人の道化たちを、額のなかに収めることで、これは絵画としてあなたに訴えかけているのだ、と主張しているように伝わってくる。

(カンヴァスに油彩 200×120㎝ パリ、個人コレクション)




HOME| ルオー| 次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2018
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである