壺齋散人の 美術批評
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老いた王(Le vieux roi):ルオーの世界





「老いた王(Le vieux roi)」と題するこの絵は、ルオーの最高傑作のひとつに数えられる。ステンドグラスを思わせるその画風が、もっともルオーらしさを感じさせるとともに、ルオー特有の内面的な深さをも表現し得ているからだろう。ルオーはこの絵の完成に20年以上をかけたと言われるが、それほど彼自身もこの絵に特別のこだわりをもっていたのであろう。

老いた王というのは、キリストを迫害したユダヤの王なのであろうか。しかし、この絵からは迫害者の雰囲気は伝わってこない。むしろ、領民の運命を憂えている王の深い思慮のようなものが伝わってくる。そんなところから、この絵は大古のユダヤの思慮深い王をイメージしたとも、あるいは古代メソポタミアの偉大な征服王をイメージしたとも解釈されてきた。

王は横を向いて、その横向きの表情からは憂いのようなものが伝わってくる。宝石をちりばめた王冠をかぶり、赤い上着を着ている。上着の下から覗いている着物は、鎧のようにも見える。左手で白い花びらをもっているが、これは何を暗示しているのか。

赤、青、黄といった原色をドラスティックに対比させ、輪郭を黒い太線で区切っているところは、ステンドグラスの技法を意識的に取り入れたのだと思う。

(1937年 カンヴァスに油彩 77×54㎝ ピッツバーグ カーネギー・インステトゥート美術館)





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