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辱めを受けるキリスト(Le Christ aux outrages):ルオーの宗教画





ルオーは、キリストの受難をテーマにした絵を夥しく描いた。「辱めを受けるキリスト(Le Christ aux outrages)」と題するこの絵は、その代表的なものの一つである。「この人を見よ」という言葉で知られている、ピラトの官邸におけるキリストの受難を描いたものだ。

福音書によれば、ローマ帝国のユダヤ総督であったピラトは、キリストを捉えてむち打ちの刑を与えた後、総督官邸に連れて行く。そしてそこで、キリストの上着を脱がせて赤い(あるいは紫の)マントを着せ、茨の冠をかぶせて、手には偽の権力の象徴である葦の杖を持たせた。その上でユダヤ人の群衆に向かって、「この人を見よ」と呼びかける(ヨハネ伝)。呼びかけられてユダヤ人たちは、キリストを殺すべきだと口々に叫ぶのだ。

この絵は、赤いマントを着せられ、茨の冠をかぶせられ、葦の杖を持たされたキリストが、ユダヤ人たちによる辱めを受けているところを描いている。このモチーフを描いた絵には、群衆の前に引き出されて辱めを受けるキリストを描いたものが多いのだが、この絵には、群衆の姿は出てこず、キリストはひとり空虚を見つめながら、辱めに耐えているように描かれている。そうすることで、キリストの孤独を表現したのだろうと思う。

キリストの上体はやせこけ、まるで干物のようである。顔の中心に長い鼻を描き、瞳を黒く塗りつぶしているところは、ルオーの大きな特徴である。全体として明るい色調になっており、テーマの陰鬱さとは正反対のイメージを与える。

(1942年 カンヴァスに油彩 105.5×75.5㎝ シュトゥットガルト国立美術館)




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