壺齋散人の 美術批評
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オック岬:スーラの点描画





1885年の夏、スーラはノルマンディーに滞在して、そこの風景を描くうちに、点描法の試行を行った。「オック岬」と題したこの絵は、その成果である。スーラがこの作品を通じて行おうとしたのは、色彩を個々の色の点の集合として表現することであったが、この絵をよく見ればわかるように、まだ本格的な点描画とは言えない。ブラシを横に掃いたようなタッチが目立つことから、この時点では、点描画というよりは、洗練されたバレイエ画法と言った方がよい。しかし、ここで点描のこつをつかんだスーラは、グランド・ジャット島の描きなおしの作業を通じて、点描法をさらに洗練させてゆく。

この絵は、最初1886年春のアンデパンダン展に出品されたが、グランド・ジャットと比べて評判は芳しくなかった。あまりにも荒涼としたイメージで、生命を感じさせず、見る人を憂鬱にするという批判が強かった。色彩的にも青が基調で、憂鬱な雰囲気を増幅させていた。

そういう批判を踏まえてスーラは、1888年の展覧会に再度出品するに先立ち、大幅な描きなおしをした。海の部分にオレンジの点を加えることで、全体に暖かい雰囲気を演出し、中央にそびえる断崖も厚みを加えて、全体として柔らかいムードを強調した。また、キャンバスの四周を剥ぎ足して、それを額縁に見せるような工夫もした。

そんなわけで、最初の絵と比べると、格段に見違える作品に仕上がった。

(1885年 カンバスに油彩 60.0×82.5㎝ ロンドン、テート・ギャラリー)




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