壺齋散人の 美術批評
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オンフルールのマリア号:スーラの点描画





1886年の夏にオンフルールで描かれた七点のうちの一つ。オンフルールの港とそこに係留されている船「マリア」号を描いている。この船は、オンフルールとイギリスのサザンプトン港を結ぶ定期航路を走っていたものだ。

岸壁の斜めの線と、鉄道線路の線によって遠近法を演出し、船のマストや煙突などの垂直線を駆使して画面に変化をもたらしている。マストは画面の上部にはみ出し、船の規模が雄大なことを表している。

色彩は全体的に地味で、むしろくすんだ感じがする。それをスーラは点描法で表現しているわけだが、空には雲がかかっているわけではなし、海もほんの一部がのぞいているばかりで、全体として動きの乏しい感じを与える。それは人物が極端に省かれていることも影響しているだろう。オンフルースの港はいつも人でごった返していたはずで、この絵のような静寂感とは無縁だったはずだ。

この絵には、実際の眺めから自分の関心をひいたものだけを取り出し、それらを組み合わせて画面構想をしようとするスーラの意欲を感じることができる。

(1886年 カンバスに油彩 54.5×64.5㎝ プラハ国立美術館)




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