壺齋散人の 美術批評
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窓辺で手紙を読む女:フェルメールの女性たち





「窓辺で手紙を読む女」は、「眠る女」のすぐ後に製作されたと考えられるが、この短い間にフェルメールの腕前は飛躍的に高まった。まず光の処理がうまくなった。「眠る女」では、光の効果は絵の前面に集中し、そのため全体のバランスが悪くなっていたのに、この絵では、左側の窓を光源として画面全体にゆきわたっている。そのおかげで全体のバランスがよくなり、また光が一定の方向に向かっているため、陰影もダイナミックに表現されている。構図もすっきりしている。

画面の中央にモチーフである手紙を読む女を配することで、見るものの視線をそこに集中させ、そこから周辺部に誘導するように工夫されている。女は開いた窓に向かって立っているので、その間に開放感を感じさせる動きが生じている。しかも右手前の分厚いカーテンには窓からさした光があたって強い陰影のコントラストを生み出している。カーテンは窓から吹き込んだ風で揺れているようにも見える。このカーテンの向かい側にある窓上の赤いカーテンも風に揺れているように見える。

開け放たれた窓のガラスには、女の影がうすく映っている。このガラス窓は、今後のフェルメールの絵に繰り返し現れる。

窓枠の角度や二つのカーテンの位置関係から、この絵が巧妙な遠近法を用いていることが読み取れる。遠近法の消失点は、女の頭の後ろあたりにある。そんなこともあって、見るものの目は、まず女性の顔の付近に導かれるわけである。窓の外を除けば、室内ではこの消失点の辺りが一番明るく、画面上部と下部とが暗くなっている。画面下部のその暗い部分に、織物を広げたテーブルとその上に置かれた果物皿とが描かれている。これらはかなり詳細に描かれているが、全体が暗い影のなかにあるために、うるささを感じさせない。

女は両手で手紙を押さえ、夢中でそれを読んでいる。手紙を読む女のモチーフは、フェルメールの好んだものだ。この絵の中の女がどんな手紙を読んでいるのか、それは画面からはわからない。その解釈は見るものの目にゆだねる、ということなのだろう。ただ、窓ガラスに映った女の表情が、手紙を読む女の内面をひっそりと語っているようにも見える。



これは、女の部分を拡大したもの。女の顔が横を向いているところと、それが窓ガラスに映って手前に向いているところから、女の顔が立体的に見えてくるように工夫されている。(カンヴァスに油彩 83×64.5cm ドレスデン、アルテマイスター美術館)






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