壺齋散人の 美術批評 |
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士官と笑う娘:フェルメールの女性たち |
「士官と笑う娘」は1658年頃、「窓辺で手紙を読む女」の翌年あたりに製作されたと考えられる。絵の舞台となっている室内空間が、「窓辺」と同じ部屋の空間であることが、窓の形からわかる。両者で異なるのは、この絵の中では壁に地図がかかっていることだ。この地図は、フランドル地方を、南北軸ではなく東西軸で描いている。当時地図は高価な貴重品であったから、これを絵の中で見せびらかすことで、この空間の知的雰囲気を強調しているのだとも考えられる。 しかし絵のモチーフは、知的雰囲気とは縁遠いようだ。二人の人物が描かれているが、背中を見せているのは士官、こちらに顔を向けているのは若い娘。娘が両手でワイングラスを握っているところから、この絵はさまざまなことを連想させる。 その最たるものは、仕官がこの娘を性的に誘惑しようとしていると解釈するものだ。娘はワイングラスを弄びながら士官に向かって微笑みかけている。一方士官のようは、リラックスした姿勢で娘になにか語りかけているように見える。そんなところからこの絵は、士官からの性的な誘惑に、若い娘が微笑みをもって応えているのだと解釈されたわけである。 この絵には、構図の面で大きな特徴が指摘できる。娘に比較して士官の姿が極端に大きい。これは遠近法を強調する為の工夫と思われるが、その工夫は窓枠の傾斜にも現れていて、上部の窓枠が異様なほどの傾斜を見せている。遠近感を強調することでフェルメールは、この絵の中に広々とした空間感覚を持ち込みたかったのだと考えられる。 なお、この絵には、カメラ・オブスクーラの介在が指摘されている。この機械を使うことで、遠近感を強調しようとしたと考えられる。 これは若い娘の部分を拡大したもの。娘は大きな白いフードを頭からかぶり、大胆に笑っている。だがはしたなさまでは感じさせない。娘の着ている衣装は、「窓辺」の女が着ていたものと同じものだ。しかし、衣装の着ている女性は、同じ顔には見えない。(カンヴァスに油彩 49.2×44.4cm ニューヨーク、フリック・コレクション) |
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