壺齋散人の 美術批評
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忍耐:ブリューゲルの版画




「忍耐」と題したこの作品は、一種の寓意画である。ブリューゲルは七つの大罪シリーズと七つの徳シリーズの中で寓意画の世界を展開しているが、これはその先駆けとなる作品だ。

一見してわかるとおり、ボス的なイメージがさらに拡大され、画面全体を怪物たちの奇妙な姿が埋め尽くしている。その怪物たちの中で、前景の中心にある石の上に、鎖でつながれているのが忍耐の女神である。彼女は両手に十字架を抱きながら、天空の一端を見つめているようである。

画面には、割れた卵のようなイメージと巨大な枯れ木がどんと居座り、それを囲むようにして、怪物や魔物、また罪深い人間たちが描かれている。

卵には手足のほかに頭もついている、これはボスの作品「悦楽の園」に出てくる卵の化け物をストレートに想起させる。ボスの卵は両足を船に乗せて一人で進んでいくが、この卵には御者のような男が乗っている。男は卵にめり込むように座り、背中からはなぜか枯れ枝が生えて、それに向かって空を飛ぶ魚が襲いかかろうとしている。

枯れ木の方はどうやら、ブリューゲル特有のイメージのようだ。枯れ木にあいた洞穴が、ブリューゲルに両義的な空間のイメージを喚起させたのだろうか。

画面を横切るように川が流れ、死んだ人間や魚が浮かんでいる。それらは岸辺にいる生き物同様に、みなおどろおどろしい姿をした怪物たちばかりだ。

こうしたイメージのトータルがなぜ忍耐と結びつくのか、筆者のようなものにはわからない。寓意画というものは、文化の理解がないと、なかなか読み解けないものだ。





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