壺齋散人の 美術批評
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最後の審判:ブリューゲルの版画




最後の審判は、中世のヨーロッパ人にとっては、もっとも関心のある主題だったに違いない。この世の終わりに際して、自分にどのような審判が割り当てられるかは、なににもまして切実な、魂の可能性の問題だったからだ。

だからこのテーマは繰り返し絵画に描かれた。ブリューゲルも版画という大衆的な媒体を通して、最後の審判の模様を人々に訴えようとしたのかもしれない。そこには無論、ブリューゲルらしさが溢れている。

図柄はボスの作品「最後の審判」を一部参照している。真ん中上部のキリストと彼を取り巻く天使たちがそれだ。ボスの作品でも真ん中上部に、アーチの上に腰を下ろしたキリストが描かれ、その周りに祈りを上げる聖人たちとラッパを吹く天使たちが描かれている。マタイ伝によれば、ラッパは最後の審判が始まる合図の音だ。

だがキリストの足元に広がる光景は、ボスとブリューゲルとでは大分異なる、ボスの場合は三連式の絵の左側には天国を思わせる牧歌的な風景画描かれているが、中央部と右側の絵は、地獄の風景だ。そこには救いがないのは無論、罪びとたちのあがきばかりが描かれている。

それに対してブリューゲルは、右手に罪をとがめられて地獄に落ちていく人々を、左手に祝福されて天国に上っていく人たちを、等しいアクセントを以て描いている。

ここでも地獄の入り口は、レヴィアタンの巨大な口としてあらわされている。

最前列には、地獄の穴に呑み込まれようとしている人々が、キリストに向かって手を差し伸べている。悔い改める代わりに、天国に招いてほしいといっているのだろう。だが地面にぽっかりと空いた穴や魚の口が、彼らを逃さない。もはや運命を変えることはできないのだ。





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