壺齋散人の 美術批評
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サウルの自殺:ブリューゲルの世界




ブリューゲルは聖書に題材をとった作品をいくつか描いているが、この「サウルの自殺」もその一つである。ブリューゲルはこの絵を「サムエル記」の記述をもとに描いた。

サムエル記には、イスラエル人とペリシテ人の戦いが描かれている。この闘いはペリシテ人が圧倒的に優勢だった。彼らはイスラエル人サウルとその子供たちを追い詰め、子どもたちを殺した後、サウルにも重傷を負わせた。サウルはペリシテ人の手にかかって死ぬよりは、従者の手で刺殺されることを望んだが、従者が恐れ憚って応じないので、自分で地面に剣を突き立て、その上に身を投げ出すようにして自殺した。その光景を見た従者もまた、主人の後を追って自殺したのだった。

この劇的な場面をこの絵は描いているわけである。迫りくるペリシテ人は、膨大な量に上る人間の集団として描かれている。彼らは鎧をまとって槍をかざしている。身分の高いものは馬に乗っている。そうして岩場の上に追いつめられたサウルに迫っている。

左手の岩場の上では、サウルが剣に身を投げ出して自殺をした瞬間が描かれている。突き立てられた剣はサウルの首を貫通しているのだ。従者もまた剣を自らの首に突き刺そうとしている。迫りくる敵軍を前に自殺するユダヤ人の壮絶な運命が見る者の胸を打つであろう。

この絵は風景の中に大勢の人間を描いたものとしては、比較的初期のものである。その分構図が不自然であると指摘する評者もいる。たとえば中央部に突き出た岩場が周囲の風景から浮き上がっていて不自然だとする意見などだ。

(1562年、板に油彩、33.5×55cm、ウィーン)





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