壺齋散人の 美術批評
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雪中の狩人:ブリューゲルの世界




1565年から翌年の初めにかけて、ブリューゲルは月歴画連作と呼ばれる一連の作品を描いた。月ごとの人々の習俗を、当時のネーデルランドの風景を背景にして描いたものだ。ブリューゲルはこれらを、アントワープの商人ヨンゲリングの注文に応じて描いたが、現存するのは5点のみである。

ここに掲げた「雪中の狩人(1月)」を手始めに、「暗い日(2月)」、「干し草の収穫(7月)、「穀物の収穫(8月)」、「牛群の帰り(11月)がそれだが、ほかの7か月分に対応する絵がそもそもあったのかどうか、よくわからない。

寒々とした風景の中に、狩りから戻ってきた男たちが手前の丘に大きく描かれている。男たちの足元には影がついてないから、太陽が沈んでしまったあとなのか、それとも陰惨な冬の陽気なのか、いづれにしても影がないことで、寒々とした印象が一層強調されている。

寒々とした感じを訴えるかのように、男たちの獲物は狐一匹だけだ、そのあとには猟犬たちが付き従っているが、どれもみな下をうつむいて、元気な様子には見えない。

丘の下の水たまりは凍り付いて、大勢の人物がスケートに興じている。水たまりの向う側にはアルプスのような山波が連なっているが、無論ネーデルランドにはこんな風景は見られない。ブリューゲルは若い頃のイタリア旅行のスケッチを大事にとっていて、それを常に自分の作品の中で活用したのだった。

(1565年、板に油彩、117×162cm、ウィーン美術館)





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