壺齋散人の 美術批評
HOMEブログ本館東京を描く水彩画ブレイク詩集フランス文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBBS


怠け者の天国:ブリューゲルの世界




晩年のブリューゲルは農村に生きる人々を良く描いた。今日ブリューゲルの代表作として伝わるこれらの絵は、婚礼や祭を生き生きと踊り暮し、またたっぷりと物を食う人間として描かれている。伝統的な絵画が、人間の自然とは異なった面を強調していたのに対し、ブリューゲルは人間の自然との連続性に光をあてたのだった。

怠け者の天国と題されたこの絵には、農夫、学者、兵士の3人の人物が、それぞれ怠け者の典型として描かれている。農夫はでっぷりと肥え太った尻をこちらに向け、仰向けによこたわった学者は口をあけて、テーブルのボトルからワインがしたたり落ちてこないかと狙っている。彼は腰にインク壺とペンをぶら下げ、傍らに本を置いているが、これらはどうも使われた形跡がない。

兵士は長い槍に足を持たせかけて惰眠をむさぼっている。左側には焼きあがったパンを並べた屋根が見え、右側には丸焼きの七面鳥が銀の皿に載せられ、その隣の子ブタにはナイフが突き刺さっている。いつでも食えるぞ、と云う合図だろうか。

右上手にある塊のようなものは、プディングらしい、その中を通って男が姿を現したところだ。彼は運よく怠け者の天国に生まれ変わることができたのだろう。

中央手前の殻の卵の形象はボスから受け継いだものだが、ブリューゲルの場合は、これに空虚な精神性の隠喩を重ね合わせているようだ。

(1567年、板に油彩、119×157cm、ミュンヘン美術館)





前へ|HOMEブリューゲルの世界次へ







作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである