壺齋散人の 美術批評
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絞首台の上のカササギ:ブリューゲルの世界




ブリューゲルの伝記を書いたファン・マンデルは、「絞首台の上のカササギ」を、ブリューゲルが妻への遺贈品として描いたものだと指摘した。そんなところから、この作品は彼の画業の総決算として受け取られてきた。

たしかに傑作と云うに相応しい。画面は、ブリューゲルの他の絵に比較して格段に明るく、光に満ちている。かつて見たアルプスの景色を後景に配して、雄大な自然の風景を再現している。ブリューゲルが若い頃に取り組んだ、風景画の世界がここに一段と高いレベルで再現されたといえる。

それにしても、踊る人々の傍らに絞首台を描き、その上に小さなカササギを拝したのは、どのような意図からなのか。妻への遺贈品であるだけに、この絵がどんなことをテーマにしているのか、さまざまな憶測を呼んできた。

一番もっともらしいのは、生と死のそれぞれのシンボルを並べることで、いかなる時点でも「死を忘れるな メメント・モリ」というメッセージを贈りたかったのではないかとする解釈だ。

また、死の影に人々を置くことで、スペインの圧政を批判したのだとする解釈もなりたつ。

こうした解釈のいずれも、絞首台の上にわざわざカササギをとまらせた理由は説明できない。

ヴィヨンは、自分の死を歌ったバラードの中で、絞首台にぶら下がった自分の目を、カササギがほじくると歌ったが、あるいはカササギは人間の運命に一撃を加える、縁起の悪い鳥だとイメージされていたのかもしれない。

(1568年、板に油彩、45.9×50.8cm、ウィーン美術館)





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