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聖ヒェロニムスの回心:クラナッハの宗教画 |
「聖ヒェロニムスの回心」はクラナッハにとって、制作年紀の入った初めての作品である。この作品は宗教画にとってのおなじみのテーマを描いているが、取り上げ方がユニークだ。聖ヒェロニムスは、アンティオキアの荒野の中で回心したということになっており、したがって伝統的な宗教画では、荒野の中でライオンを従えた姿で描かれるのが普通である。この絵の中のヒェロニムスは、ライオンこそ従えているが、荒野の中ではなく、森林の中でひざまづいている。 人物像の背景として森を描くのは、ウィーンを中心としたドナウ派の特徴だ。ドナウ派の画家たちは、ただ単に森を好んだというのみならず、森に特別な霊力を認めていた。それ故彼らが絵の中に森を描き入れるのは、たんに背景の装飾的な効果と云うにとどまらず、絵そのものに森の呪力を付与しようとしたフシがある。 クラナッハもまた、森の霊力を感じていたことは大いに考えられる。というのも、聖ヒェロニムスの膝のあたりから二本の樹木が生え、それらが聖ヒェロニムスと一体化しているからだ。これは、聖ヒェロニムスの霊力が樹木に伝わったとも、あるいは樹木の霊力が聖ヒェロニムスに宿ったとも考えられる。 伝説上の聖ヒェロニムスは、荒野の中でキリストの幻影を見たということになっているが、この絵の中の聖ヒェロニムスは磔刑にされているキリストを目の前に見ている。こうした構図も、クラナッハ特有のものだ。なお、このキリストの磔刑のイメージは、後のミュンヘンの磔刑図にそのまま再現されている。 (1502年、板に油彩、55.5×41.5cm、ウィーン、美術史博物館) |
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