壺齋散人の 美術批評
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ハインリッヒ敬虔公夫妻:クラナッハの肖像画




クラナッハは数多くの肖像画を描いたが、その中でも傑作といわれるものに、ザクセン公(ハインリッヒ敬虔公)夫妻を描いたものがある。等身大の大きな肖像画が一対になったものである。

ザクセン選帝侯家は、1464年にフルードリッヒ2世が死んだときに二つに分裂し、年長の息子エルンストが本家を継ぎ、年少のアルブレヒトがザクセン公を称した。ハインリッヒは、アルブレヒトの流れだが、兄のゲオルクがザクセン公となり、自身は長い間傍流に甘んじていた。ザクセン公を継ぐのは、ゲオルクが死んだ後の1539年のことであり、すでに66歳になっていた。したがって公位にあったのは、2年ちょっとのことでしかない。

ハインリッヒは、1512年にメックレンブルグ公マグヌス2世の娘カタリーナと結婚したが、その祝いとして、クラナッハに夫妻の肖像画を依頼した。そこでクラナッハは、二人の肖像を一対の作品として完成させたのであった。

以上の経緯からわかるとおり、この絵が完成した時には、ハインリッヒはまだザクセン公にはなっていなかったわけだが、今日では便宜的に、ザクセン公夫妻の肖像画として通っている。

まだ公爵になっていないにかかわらず、ハインリッヒの姿は威風堂々としている。妻のカタリーナの方も、巨大な髪飾りと金ぴかの衣装に身を包み、いかにも貴婦人然としている。従者の犬の方も、主人のたたずまいにあわせるように、一方は大きな体で動き回り、一方は小さくかしこまっている。

(1514年、カンヴァスに油彩、それぞれ184×82.5cm、ドレスデン絵画館)





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