壺齋散人の 美術批評
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パリスの審判:クラナッハの官能美




クラナッハの専売特許ともいえる、あの独特の裸体画を、クラナッハは1510代の後半以降ぼちぼちと折に触れて描き始めるのだが、本格化するのは1530年以降のことである。それらの裸体画は、聖書やギリシャ・ローマ神話に題材をとったもので、類型的であるばかりか、同じテーマの絵をいくつも繰り返し描いている。なかには、40点も描いたテーマもある。

パリスの審判は、ギリシャ神話に出てくる逸話で、トロイ戦争の発端となった出来事である。テティスとペーレウスの結婚式に招かれなかった争いの神エリスが、怒って婚姻の場に黄金のリンゴを投げ入れ、最も美しい女神に与えると言い残した。そこで、このリンゴを巡って、ヘーラー(ユーノー)、アフロディテー(ウェヌス)、アテーナー(ミネルヴァ)の三人が名乗りを上げたところ、ゼウス(ユピテル)がパリスをその判定者に選んだ。三人の女神はそれぞれパリスに賄賂を贈って自分に有利な判定を得ようとしたが、賄賂としてもっとも美しい女を与えようと申し出たアフロディテーがリンゴを獲得した。その美しい女とはスパルタ王メネラオスの妻ヘレネ―のことであった。そのヘレネ―がパリスに奪われたことが原因となって、トロイ戦争が勃発するわけである。

この絵は、左下にパリスを座らせ、その前に三人の女神が並んでいる構図である。どの女神が誰かについては、定説がない。ただ帽子をかぶっているのはアフロディテーだと推測されている。左上にいるキューピッドが矢を向けているのが、この帽子だからである。アフロディテーとキューピッドは母子なのだ。

このテーマの絵も、クラナッハは何点も繰り返し描いている。そのうち最も有名なのが、1530年に描かれたこの作品と、1528年に描かれたニューヨーク・メトロポリタン美術館のものである。

(1530年、板に油彩、35×24cm、カールスルーエ国立美術館)





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