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聖ヒエロニムス:レオナルド・ダ・ヴィンチの宗教画




レオナルド・ダ・ヴィンチは、未完成のまま放棄した作品が多いことで知られている。「聖ヒエロニムス」と題されたこの作品もその一つである。彼の未完成癖の理由としてはいくつかのことがあげられているが、どうも彼には新たな関心の対象が現れると、それに夢中になってしまい、それまで従事していた仕事を忘れてしまうという傾向が強かったようだ。

この絵は、1480年前後に制作されていたようだが、この同じ時期に彼は、フィレンツェのヴェッキオ宮殿の礼拝堂のための祭壇画の依頼を受けていた。その祭壇画もやはり、多額の手付金をもらっていたにもかかわらず、完成していない。

「聖ヒエロニムス」は、ヴェッキオ宮殿の祭壇画製作の副産物だった可能性が強いと指摘されている。荒野のヒエロニムスは当時の祭壇画のテーマとしてはもっともポピュラーだった。その祭壇画の一部の習作として、この絵が描かれた可能性は十分に考えられる。

この絵でダ・ヴィンチは、人体についての自分の研究成果を盛り込んでいると考えられる。しゃがみこんだ人体のあり方や、顔の表情などについて、実に行き届いた観察が伺われる。右手前にはライオンが描かれているが、荒野における聖ヒエロニムスとライオンは古来宗教画のもっともポピュラーなテーマであった。(板に油彩 103×75cm ヴァチカン美術館)





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