壺齋散人の 美術批評
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デューラー青年時代の自画像




アルブレヒト・デューラーが20代の青年時代に描いた油彩の自画像が3点存在している。いずれも有名な作品だ。どの絵も、まるでお見合い写真のように着飾り、つんとすました表情の自分自身(デューラー)を描いている。自画像であるから、当時の事情からして公開を予想しておらず、あくまでも個人的な目的のために描かれたものと思われるのだが、それにしては随分と手が込んでいるとの印象を与える。

これは1493年の自画像と呼ばれている作品。(羊皮紙のキャンバスに油彩、56.5×44.5cm、ルーヴル美術館)

斜め横を向き、手までを描いた半身像だ。デューラーの容貌を特徴づけるやさしい目とギリシャ風の段鼻がポイントになっている。顔と並んで表情豊かなのは手だ。左手で、エリンギウムの根っこをもち、右手には針金のようなものを握っている。おそらく銀筆だろう。(鏡絵であるから)

このエリンギウムは、後世の人々にさまざまな憶測を抱かせた。エリンギウムは夏に咲く花であるから、デューラーはこの絵を1493年の夏に描いたということになり、したがってすでに22歳になっていたという説やら、エリンギウムの花言葉は「夫の貞操」であることから、当時進んでいたであろうアグネスとの結婚話を踏まえたお見合い写真のようなものだったとする説などがそれである。



これは1498年の自画像と呼ばれている作品。(板に油彩、52.5×41cm、マドリード、プラド美術館)

1493年の自画像とほぼ同じポーズをとっているが、手だけは別で、ベネチア風の皮手袋をはめた両手を握り合わせている。

1493年の自画像も豪華な衣装をまとっていたが、この絵の中のデューラーも目を見張るような服装をしている。フリルのついた下着の上に、黒い縁取りをした派手な上着をまとい、やはり派手な模様の帽子をかぶっている。これらの色彩のコントラストが、この絵に強いアクセントをもたらしている。

デューラーは窓際に座って明るい光線を浴びている。窓の外には、まだ雪の残っている山脈が見えるところから、季節は初春のころだと思わせる。





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