壺齋散人の 美術批評 |
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バッタのいる聖家族:デューラーの銅版画 |
イタリア旅行から戻ったデューラーが、本格的に取り組んだのは版画であった。デューラーは、銅版画については若い頃に習い覚えた金細工の技術を生かして、精密な作品を作り上げた。また、木版画は当時、成立して間もない若い芸術であったが、デューラーはそれを本格的な表現形式に高めていった。 「バッタのいる聖家族」は、初期のデューラーの銅版画の代表作とされるものである。まず構図をみると、遥かな地平線を背景にした野原に、芝生のベンチに腰かけた聖母子があり、その傍らにヨハネが横たわっている。聖母子の静的なイメージはネーデルラントの影響を伺わせ、マリアの衣装に見られるドレーパリーは、イタリア絵画の彫刻的な立体性の影響を伺わせる。 画面の右下に、題名のもととなったバッタらしい生き物がいるが、これが何の隠喩なのか、詳細はわからない。この絵のテーマはもともと、ヘロデ王の迫害を逃れて、エジプトへ逃避する聖家族を描いたものらしいから、バッタはその逃避の道筋を案内する生き物であったのかもしれない。 デューラーはこの銅版画を、下絵から彫刻に至るすべての過程を自らの手で行った。なお、画面の下にモノグラムが彫り込まれているが、これはデューラーがモノグラムを記した最初の銅版画であるとされる。 (1495年、銅版画、23.6×18cm、カールスルーエ国立美術館) |
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