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ミレー「落穂ひろい」:バルビゾン派の画家たち




「落穂ひろい(Des glaneuses)」は1857年のサロンに出展された。「晩鐘」と並ぶミレーの代表作である。この頃ミレーはひどい貧窮の中にあった。自殺まで考えたというから、だいぶ困っていたのだろう。子沢山のうえ、二人の弟の面倒まで引き受ける一方、画商との間にトラブルがあって、作品の代金を得ることができなかったためである。

この作品は、賛否両方の反響があった。好意的な人々は、農民の貧しい境遇をリアルに描いていると評価し、否定的な人々は、あまりにも政治的な主張が込められており、芸術とはいえないと批判した。

作品の背景解釈として、旧約聖書の一節を引用する人もいる。申命記の次のような部分だ。「あなたが畑で穀物の刈り入れをして、 束の一つを畑に置き忘れたときは、それを取りに戻ってはならない。それは、在留異国人や、みなしご、やもめのものとしなければならない。あなたの神、主が、あなたのすべての手のわざを祝福してくださるためである」

ミレーの周辺では、これと似たような事態が実際に起きていた。バルビゾンの近辺では、地主の収穫を手伝う農民が、落穂を拾う権利が認められていたが、これを地主が取り上げようとして騒動になった。その結果、地主と農民との間に協定が結ばれた。収穫が終わった後、日没までの間に、女と子どもだけで行うという条件で認めようというものだった。もっともミレー自身は、自分は見たままを描いたのであって、それ以外のことは何も考慮しなかったと言ってはいるが。

積みわらなどを遠景にして、女たちがせっせと落穂ひろいをするさまが描かれる。単純な構図だが、女たちの姿勢にはそれぞれ変化があって、動きを感じさせる。色使いは鮮やかで、しかもミレーにはめずらしく強い明暗対比がある。

(1857年 カンバスに油彩 83.5×111.0cm パリ、オルセー美術館)




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