壺齋散人の 美術批評
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手品師:ボスの世界



テーブルを境にして手品師と観客が相対している。手品師がやっているのは、コップと玉の手品だ。手品師は球を顔の前にかざし、観客に向かってこれからコップの中に入れると宣言しているのだろう。彼の腰にぶら下がった籠にはフクロウの顔がのぞいているが、それは邪悪の象徴だ。また手品師の足元には犬がかしこまっているが、こちらは阿呆帽をかぶっている。

観客の中には手品師の方を見ている者もあれば、腰をかがめて手品に見入っている男の方をみているものもある。この男は身なりからして身分の高いことを伺わせるが、頭の方はあまり賢くはないようである。口から飛び出したか、あるいは呑み込まれようとしている蛙が、彼の騙されやすさをシンボライズしていることからも読み取れる。

男の背後には手品師の相棒と思われる男が立ち、とぼけた顔で、男の財布をすろうとしている。男は手品に夢中でそれに気づかない。そんな男の間抜けぶりを子供が下から見上げている。

観客の中には高貴な身分の女や尼僧もいる。こうした人たちが道端で大道芸人である手品師に見入るということはあまりなかったと思われるのだが、ボスは様々な階層の人たちをごちゃ混ぜにして描くことで、人間なんてみな同じなんだというメッセージを発しているのだろう。

背景には高い塀が描かれ、そこには所々雑草が生えている。塀の左端には丸い透明の容器が置かれ、その中にくちばしの長い鳥が入っているが、これも何かのメタファーであると考えられる。ボスはメタファーをシンボルとして用いるのが好きなのだ。

なお、この絵はオリジナルだとする説と初期の作品を弟子たちがコピーしたとする説が拮抗している。

(板に油彩、53×65cm、サンジェルマン・アン・レー市立美術館)





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