壺齋散人の 美術批評
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ボスの地獄:干草車



三連祭壇画「干草車」の右翼が地獄のイメージを表していることは間違いないが、それが地獄そのものなのか、それとも地獄の入り口なのか、については議論がある。というのも、ここに描かれている塔のような構築物が地獄の入り口なのではないかとの見方もあるからだ。人によっては、それを地獄が多層的な構成をとっているのだとみる者もいる。

ここでは地獄を描いたものだと想定して、描かれたものを見ていきたい。塔の立っている平面の向う側(画面上部)には燃え盛る炎があり、こちら側(画面下部)にはじめじめした空間がある。中世人にとっての地獄は、炎と洪水という、相反したイメージを内包しているのだろう。

塔の平面は橋によって支えられているように見えるが、橋の切片はジグザグなのに、その表面は平な印象をあたえる。だまし絵のようなのだ。

橋の上には、暗黒の入り口に向かって、化け物に引き立てられている男たちが描かれている。右側の白牛に乗った男は、中央画面で干草車の後ろに従っていた皇帝だとする説もある。彼は傲慢の罪によって地獄に落ちたのだ。

左側の男は、蛙のような顔つきの化けものと、鹿に付き添われているが、いかにも不安そうな表情だ。真ん中に横たわった男は、恐怖のあまりに失神したのだろうか。

橋のたもとには、犬にけしかけられている男、逆さつりにされた男、魚の化け物に呑み込まれている男が描かれている。魚の足が、顔とは逆の向きについているのが面白い。

人間を呑み込む動物のイメージは、この後の作品にも何度も出てくる。動物に呑み込まれる人間には、どんな罰が課されているのだろうか。





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