壺齋散人の 美術批評
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天地創造:ボス「悦楽の園」外翼画




ボスのトリプティック「悦楽の園」の外翼には「天地創造」のイメージが描かれている。これが内翼の三枚の絵とどのような関係にあるのか、それは見る者の想像力次第なのだろう。

ミケランジェロがシスティナの礼拝堂の天井に描いた天地創造は、超人としての創造主が、まるで彫像をつくる芸術家のように、次々と被造物をこの世に送り出している光景が描かれているが、ボスはここでは、聖書の伝統的な解釈に従って、天地創造を描き出している。

生まれつつある天地は球形の舞台の中で展開している、それにたいして創造主は、宇宙の外側から天地のなりゆくさまを見ている。彼は、手ではなく、言葉を通じて天地を想像したと聖書にあるとおり、ここでも、言葉から存在を紡ぎ出しているとイメージされている。

と言うのも、創造主は書物を抱えながら、言葉を発しているからである。その言葉が、画面の上の方に書かれている。それは、"Ipse dixit et facta sunt, ipse mandavit et create sunt."(言われたことは、その通りになった、命じられたことは、成就された)という言葉である。

中世の民衆は、宇宙全体を球体とし、地面をその球体に浮かぶ円盤のようなものとイメージしていた。言い換えれば、円盤としての大地を聖なる天蓋が覆い、大地の下にある地下世界ともども、全体として球形を呈しているというのが、民衆の素朴な宇宙観であった。この絵は、そんな民衆の宇宙観を描き出しているわけである。





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