壺齋散人の 美術批評
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茨冠をかぶせられるキリスト:ボスの世界




イエス・キリストがゴルゴダの丘へと連行される前に、ピラトの官邸の中で兵士たちになぶりものにされた場面を「マルコ伝」は次のように記している。「彼らはイエスに紫の衣を着せ、茨の冠をかぶせて王に仕立てたのち、ユダヤ人の王、万歳! と叫んで喝采した。それから葦の棒で頭を叩き、唾をかけ、ひざまずいておがんだ。こうしてなぶった後、紫の衣を脱がせてもとの着物を着せた」

この絵はまさに、兵卒によってキリストの頭に茨の冠がかぶせられようとしている一瞬を描いたものである。十字架を背負うキリスト像と並んで、キリスト受難劇を象徴するシーンである。

茨の冠をかぶせられるキリストの表情は穏やかで、画面のこちら側にいる観客たちの方を向いているようである。キリストに冠をかぶせる兵士の表情がこわばっているように見えるのに対して、キリストの右手にいる兵士は侮蔑の表情を浮かべている。キリストの右下に居て、衣に掴みかかっている男は、処刑を見物に来た人なのであろう。

人物たちがみな半身像に描かれているのは、ボスに先立つ世代のネーデルラントの画家たちの間で流行していた構図という。

(パネルに油彩、73.7×58.7cm、ロンドン、ナショナル・ギャラリー)





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