壺齋散人の 美術批評
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リュートを弾く人:カラヴァッジオの世界




「リュートを弾く人」は、カラヴァッジオの初期を代表する傑作である。これには二つのヴァージョンがある。上の絵は、サンクト・ペチェルブルグのエルミタージュ美術館にあるもので、デル・モンテ枢機卿の友人、ヴェンチェンツォ・ジュスティアーニの注文を受けて描いたもの。リュートを弾く若者の表情をスナップ風に描いた風俗画である。

若者は女性的な雰囲気を感じさせる。モデルとなったのは、カラヴァッジオと一緒にデル・モンテ邸に寄宿していたスペイン人、ペドロ・モントーヤ。去勢された歌手である。何故歌手が去勢されたのか、詳しい事情はわからない。去勢されると、当然男性ホルモンが出なくなるわけで、いつまでも少年らしさが続く。おそらく男色の相手をさせられたのであろう。

この若者は、リュートを弾くかたわら、テーブルの上にはヴァイオリンも載せている。楽器の演奏が得意なのだろう。楽譜が開かれているが、その譜面は本物のそのまま再現しており、実際にそれを読むことができる。当時流行していたマドリガーレ「あなたに夢中なのをご存じ」だそうだ。カラヴァッジオの写実主義の徹底ぶりが思い知らされる。(1596年ごろ カンバスに油彩 94×119㎝ エルミタージュ美術館)



これは、ニューヨークのメトロポリタン美術館にあるヴァージョン。ジュスティアーニの注文した作品が気に入ったデル・モンテが、自分にも欲しくなって追加で描かせた。若者のポーズはほぼ同じだが、花瓶が省かれ、笛と小打楽器が置かれている。(1596年頃 カンバスに油彩 100×126.5㎝ メトロポリタン美術館)

二つのヴァージョンを比較すると、エルミタージュのほうが抜群に優れている。ニューヨークのほうは、モデルを前にしてではなく、記憶で描いたせいで、溌溂さに欠けたのだと思う。




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