壺齋散人の 美術批評
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聖マタイの召命:カラヴァッジオの世界




デル・モンテ邸に隣接してサン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂がたっている。その聖堂のコンタレッリ礼拝堂を飾る絵を、カラヴァッジオは受注した。この礼拝堂は、枢機卿マッテオ・コンタレッリが買い取ったもので、ここを優れた絵で飾ることはかれの念願だった。ところがその念願がかなう前に死んでしまったので、自分の死後その念願を実現せよとの遺言を残した。遺言執行人は、当時ローマで一流と言われた絵師の中からカラヴァッジオを選んで、「聖マタイの召命」及び「聖マタイの殉教」の連作を註文したのである。数ある絵師の中からカラヴァッジオが選ばれたのは、聖堂と近所付き合いのあったデル・モンテの口利きもあったのではないか。

聖マタイをモチーフにしたのは、コンタレッリ枢機卿の洗礼名に基づいているようだ。時に、1599年7月のこと。カラヴァッジオは早速制作にとりかかり、翌1600年早々、まず「聖マタイの殉教」を納品し、続いて「聖マタイの召命」を納品した。二つ一緒に並べて見ると、「聖マタイの殉教」には見劣りするところがあった。そこでカラヴァッジオは、「聖マタイの殉教」を全面的に描きなおした。レントゲン写真を通じて、改作の様子が明らかになった。

そんなわけで、まず「聖マタイの召命」を取り上げる。これは、マタイがキリストによって召命される場面をモチーフにしている。カラヴァッジオはその場面を、同時代の変哲もない場所に設定した。これは当初、居酒屋あるいは賭博場などの暗い部屋ではないかと受け取られたが、よく見ると、税務署だとわかる。外出着の男たちが数人描かれているが、かれらは税務署へ税金を収めに来たのである。画面の右端に、コインをやりとりするところが描かれているが、これは税金を納めているのである。

右端にいる男がキリストで、誰かを指さしている。指さされているのはマタイだ。そこで誰がマタイなのか、論争が起きた。通説では、画面左から三番目の、髭を生やした男だといわれたが、左端でコインに向かってうつむいているのがそうだと思われるようになった。



これは、当初マタイだと思われた男の部分。彼は自分自身を指さしているようにも見えるが、実は左端の男を指さしているのである。何故なら、マタイが徴税吏であったことはわかっており、この髭の男は、税金を納めに来た男と思われるからだ。



これはコインをやり取りする場面。二人の手が伸びているが、そのうちの一つは髭の男のものだ。この髭の男は、徴税吏であるマタイに、税金を納めているのである。なお、画面中央近くの若い男のモデルは、カラヴァッジオの弟分ミンニーティである。

(1600年 カンバスに油彩 322×340㎝ ローマ、サン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂)




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