壺齋散人の 美術批評
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聖パウロの回心:カラヴァッジオの世界




コンタレッリ礼拝堂の「聖マタイ」のシリーズが大変な評判を呼んだため、サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂のチェラージ礼拝堂に、聖パウロと聖ペテロをテーマとした同じような作品を作って欲しいと注文された。注文主はティベリオ・チェラージ。チェラージは高位聖職者だ。この礼拝堂については、当時の一流画家アンニーバレ・カラッチが装飾画の作成を依頼されており、正面の祭壇画「聖母被昇天」は完成していたのだったが、アンニーバレの主人であるファルネーゼ家に呼び出されて、残りの作業が中断していた、そのおはちがカラヴァッジオのところへ廻ってきたわけである。

受注したのは、礼拝堂側壁を飾る二点の作品、「聖パウロの回心」と「聖ペテロの磔刑」である。聖マタイシリーズより一回り小振りだが、それでもけっこう大画面だ。1600年9月に受注し、翌年の秋に納品したものの、両方とも気に入ってもらえず、受け取りを拒否されたので、カラヴァッジオは急いで描きなおした。

上の写真は、「聖パウロの回心」の第二バージョン。落馬したパウロが、地面に仰向けに横たわり、両手を差し出している。一方、馬と馬丁は、パウロの様子に無関心なそぶりだ。聖パウロの回心については、次のようないわれがある。天から光がかれを照らし、パウロは倒れた。その彼に向かって、「サウルよなぜ私を迫害するのか。私はイエスである。起きて町へ行け。そうすればお前のなすべきことがわかる」という声が聞えて来た。その声はパウロだけに聞こえ、他のものには聞こえなかった。

この絵は、パウロが光に打たれて倒れたところを描いているのだろう。このテーマには必ず描かれたといってよいキリストは省かれ、パウロだけに集中している感じである。そのパウロと対比するような形で、巨大な馬が描かれている。この馬は、デューラーの版画「大きな馬」を下敷きにしていると言われる。(1601年 カンバスに油彩 230×175㎝ ローマ、サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂)



これは、受領拒否された第一バージョン。右上には、天使に支えられたキリストが、空から降りて来て、パウロに話しかけている。このようにキリストを一緒に描くのが、このテーマの定石なのだが、この絵がなぜ、受領拒否されたか、詳しいことはわからない。(1601年 カンバスに油彩 237×198㎝ ローマ、個人蔵)



 これは馬と馬丁の部分を拡大したもの。馬丁には何も見えない筈だが、キリストの方を見、しかも槍の穂先を向けている。




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