壺齋散人の 美術批評
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聖ペテロの磔刑:カラヴァッジオの世界




「聖ペテロの磔刑」の、第一作目が受領拒否されて描きなおされたもの。「聖パウロの回心」もかなりなリアルさを感じさせるが、こちらはそれ以上にリアルだ。実際に現場でこの絵を見た人は、皆一様に圧倒される。とにかくすごい迫力である。構図は単純そのもの、十字架の台に乗せられた聖ペテロを、三人の男たちがかつぎあげようとしているところだ。男たちは、顔を見せないでいるか、あるいはちらりと見せているだけで、自分の仕事に集中している。一方ペテロのほうは、十字架に両手足を釘付けされた状態で、うつろな目を虚空に向けている。

逆さ状態になった十字架を立てるという設定は、ミケランジェロの作品を踏襲している。しかしミケランジェロのようには、大勢の人物を配してはいない。モチーフに直接かかわる、最小限の人間たちだけである。カラヴァッジオには、このように、構図をできるだけ単純化させ、画面のインパクトを強いものにしようという傾向が強かった。

この画面のなかの聖ペテロの表情には、マルティン・ルターの面影があるとの指摘があるが、考えすぎではないか。そういう指摘は、この協会がアウグスティヌス派として、若い頃にアウグルチヌス派の教職者で、かつこの協会を訪問したことのあるルターと関連付けたいのであろうが、聖ペテロの表情には、ルターらしいところは見られない。(1601年 カンバスに油彩 230×175㎝ ローマ、サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂)

なお、第一バージョンは、エルミタージュにある磔刑図ではないかと長い間言われてきたが、それはカラヴァッジオの真作ではないと、結論付けられている。




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