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勝ち誇るキューピッド:カラヴァッジオの世界




「勝ち誇るキューピッド」(上の写真)は、ヴィンチェンツォ・ジュスティアーニのために描いたもの。ジュスティアーニは、デル・モンテ枢機卿邸の隣に邸宅を構えており、カラヴァッジオの熱心なファンの一人だった。「リュートを吹く人」のほか、「聖マタイと天使」の第一バージョンを引き取ったりした。

構図は極めて単純である。翼を広げたキューピッドが、得意そうなポーズをしている。そのポーズが、あたかも戦いに勝ったことを誇っているように見える。戦いとは、キューピッドのことだから、愛をめぐる戦いだったのであろう。一方床には、実際の闘いに用いられる武具も描かれてはいるが、そのほかに楽器など、キューピッドに相応しい小道具も描かれている。

キューピッドがつけている翼は、カラヴァッジオの友人アルテミージア・ジェンティレスキが、カラヴァッジオのために父のコレクションから持ち出して貸してくれたものである。父親はそれを速やかに返還するようカラヴァッジオに向けて手紙を書いたことがわかっている。

ヴィンチェンツォは、この絵に布をかぶせていた。その理由は、この絵の存在感があまりにも強烈なので、ほかの絵が色あせて見えてしまうことを恐れたからということだ。実際にこの絵は25年間も、布の背後にかくれたままであり、ペトラルカがその布を外してやったという。

この絵は、スキャンダルを巻き起こした。同性愛を感じさせて卑猥だという噂がたったのだ。ヴィンチェンツァがこの絵に布をかぶせたのは、スキャンダルを憚って人目を避けたのだという解釈もある。なお、モデルは、「エマオの晩餐」のキリストと同じく、フランチェスコ・ブオネーリである。この時、ブオネーリは成人になっていたはずだが、絵の中では子供として表現されている。その小さなペニスなどは、ブオネーリ本人のものではないだろう。

(1602年 カンバスに油彩 156×113㎝ ベルリン、国立美術館)




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