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イサクの犠牲:カラヴァッジオの世界




イサクの犠牲の話は、旧約聖書の創世記にあり、そのドラマチックな展開から、文芸や絵画のモチーフとされてきた。ミケランジェロも、システィナ礼拝堂の天井画「天地創造」の一挿話として描いている。カラヴァッジオは、このモチーフを、いまに伝わっている限り二点描いているが、これは二作目で、1603年ごろの作品と思われる。

人類の始祖であるアブラハムとその妻サラとの間には、なかなか子が出来なかったが、高齢に至ってやっとできた。アブラハムはその子をイサクと名づけ、可愛がって育てたが、あるとき神から、犠牲として差し出すようにとの命を受けた。アブラハムはその命を、何の疑問も抱かずに受け入れ、イサクを神の命じた場所に連れて行き、そこでイサクの首をナイフで切り落とそうとした。そこへ神の声がして、お前の信仰は確かめられたから、もうイサクを殺さなくともよいと言った、というような話である。

この絵は、アブラハムがイサクの首にナイフをあてて、いまにも切り落とそうとする瞬間を描いている。聖書には、イサクは己の運命をさとって抵抗しなかったと書かれているが、この絵の中のイサクは、口を大きくあけてなにやら叫んでいる。おそらく助けてくださいと言っているのであろう。カラヴァッジオは、聖書の記述に反してでも、リアルな人間感情を表現したかったようだ。

左側には、背に翼をつけた若者が描かれているが、これは神の言葉を伝える天使だと思われる。なお、イサクのモデルをつとめたのは、「勝ち誇るキューピッド」などと同様フランチェスコ・ブオネーリである。

(1603年頃 カンバスに油彩 104×135㎝ フィレンツェ、ウフィチ美術館)




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