壺齋散人の 美術批評
HOME ブログ本館 | 東京を描く 水彩画 日本の美術 プロフィール 掲示板


キリストの埋葬:カラヴァッジオの世界




「キリストの埋葬」は、ローマのオラトリア会の総本山サンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ聖堂にあるヴィットリーチェ礼拝堂を飾るために注文されたもの。この礼拝堂は、ここに埋葬されたピエトロ・ヴィットリーチェの名にちなんでいる。この礼拝堂には、カラヴァッジオのほか、当時美術の新しい流れを感じさせる作品が多数展示されており、さながら当代の現代美術館といった趣を呈していたという。ルーベンスの最高傑作といわれる「ヴァリチェッリの聖母」も飾られている。

テーマのキリストの埋葬は、おそらく注文主の意向であろうが、カラヴァッジオの個人的な意趣も含まれている。当時カラヴァッジオは、バリオーネ裁判という訴訟に巻き込まれていたのだったが、その理由は、バリオーネの大作「キリストの復活」を、カラヴァッジオらが根拠もなく誹謗したというものだった。その正否はわからないが、この当時のカラヴァッジオは、一躍有名になって金回りもよくなり、生来の乱痴気ぶりを発揮していた。度重なる傷害事件とか、不名誉な事件を巻き起こしていたので、カラヴァッジオは手の付けられぬ無法者だとの噂が立っていたほどだ。ともあれ、自分を訴えたバリオーネの作品「キリストの復活」より、自分の作品「キリストの埋葬」のほうが一段見栄えがする、ということを世間に向けて訴えたかったに違いない。

構図がかなり大胆で斬新である。キリストを始め六人の人物が、一枚の強大な岩盤の上に立っている。その岩盤の上の人物たちは、キリストの足を基軸として扇状に配列されている。キリストの体は水平におかれ、その反対側の女は垂直に置かれ、その間に五人の人物が扇の軸のような展開をしている。

キリストの足を抱えているのはニコデモ、垂直に立って両手を大きく広げているのはクレオパのマリア。ニコデモの肘はこちらにむかって鋭く突きだされ、マリアは両手を広げながらなにやら祈っているようである。当時、このように両手を広げることは、祈りのポーズだった。

この巨大な絵は、岩盤が見物人の目戦に応じて設置され、その上に人物像が見えるようになっている。したがって見物人は、これらの人物たち、とりわけキリストを見あげるような形になる。今日はヴァチカンに保存・展示されているが、やはりそのように設置されている。

(1603年頃 カンバスに油彩 300×203㎝ ローマ、ヴァチカン美術館)




HOME カラヴァッジオ次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2019
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである