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洗礼者聖ヨハネ:カラヴァッジオの世界





「洗礼者聖ヨハネ」は、カラヴァッジオが死んだ時に、舟の中に残されていた荷物に含まれていた。したがって彼の遺品ということになる。おそらく彼の最後の作品なのだろう。同じモチーフの絵が二点あったという。上のものはそのうちの一つである。もう一つは、特定できていない。

カラヴァッジオは洗礼者聖ヨハネをモチーフにした絵を結構多く描いている。最晩年にそのモチーフで二点も描いたということは、カラヴァッジオのこだわりを感じさせる。若い頃に描いた洗礼者聖ヨハネは、若々しい肉体として描かれているが、この絵のなかの洗礼者聖ヨハネは、肉体的にはくたびれた印象で、なにやら精神的な訴えかけをしているように見える。

カラヴァッジオはこの絵の中の洗礼者聖ヨハネに、現在の自分を重ね合わせようとしたのではないか。これをローマのパトロンたちに示すことで、自分の苦しい境遇に対して同情を期待したとする見方もある。

たしかに聖ヨハネはうつろな目つきをし、十字架がついていないただの棒をもって、なにかを訴えているように見える。

(1610年 カンバスに油彩 159×124㎝ ローマ、ボルゲーゼ美術館)




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