壺齋散人の 美術批評
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リンゴの籠(Panier des pommes):セザンヌの静物画




これは、絵は自然の再構成だというセザンヌの主張が典型的に投影された作品といえる。目の前の物を見えるとおりに描いたら、決してこんな絵にはならない。真ん中に立っている瓶は不自然に傾いているし、皿の上のビスケットは今にも崩れそうだし、第一テーブルの形がゆがんでいる。向う側の縁のラインが右と左で一致していないし、手前の方も一致していないばかりか、側面部分もごちゃごちゃとして、まとまった形になっていない。

色彩も、実際のリンゴよりも遥かに強烈で鮮やかだ。籠の中のリンゴは、籠内部の暗色をバックに輪郭を浮かび上がらせながら、赤とグリーンという補色を対比させることで色のコントラストを一層強調している。また、前面のクロースの影には緑灰色を使い、これもリンゴの赤とのコントラストを強調している。

リンゴの影が右斜め上に伸びているので、左斜め下から光線があたっているように思われるが、リンゴ自体には影がつけられていないで、リンゴのもつ立体的な感じは伝わってこない。

背景の壁を思い切ってシンプルにしているのは、これ以前の静物画とは違ったところだ。

(1890-1894、キャンバスに油彩、60×80cm、シカゴ美術学院)





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