壺齋散人の 美術批評
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花瓶のある静物(Nature morte au vase pique-fleurs):セザンヌの静物画




「花瓶のある静物(Nature morte au vase pique-fleurs)」と題した1905年のこの絵は、1899年に完成した前掲の二作、「カーテンと水差しのある静物」及び「リンゴとオレンジ」と同じモチーフを描いている。セザンヌは1890年代の末から2000年代の初頭にかけて、このモチーフを6点描いたが、これはそのうちの最後のものである。

背景を思いきり暗くすることで、モチーフを浮かび上がらせる効果を強調している。モチーフの中でも明暗の段階があり、カーテンは最も暗く描くことで後退して見えるようにし、白布以下手前のものは明るく描くことで、前面に浮き出て見えるように工夫している。

三点ある白いモチーフには、単調さを避けるために、それぞれ異なった色を伴わせているが、いずれにも淡いピンク色を入れることで、色彩の調和を図ってもいる。その辺はセザンヌらしい神経の細やかさが行き届いている、といった感じだ。

背景の暗色は殆ど黒に近いが、完全な黒ではない。様々な絵の具をキャンバスの上で混ぜあわすことで、同じ黒と言っても、暖かさを感じる色になっている。強いて言えば、紫に近い黒と言ったところか。

(1905年、キャンバスに油彩、81.3×100.7cm、ワシントン、国立美術館)





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