壺齋散人の美術批評
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アヌシー湖 セザンヌの風景画




アヌシー湖は、フランス・アルプスのスイス国境に近い湖。ジュネーヴの南の遠からぬところにある。セザンヌは1896年に家族とともにここで休暇を過ごした。この絵「アヌシー湖(Lac d'Annecy)」は、休暇中に制作した唯一の作品である。かれは、故郷のプロヴァンスとは全く雰囲気の異なるアルプスの眺めに非常に感激し、その感激を画面に固着しようとして苦戦したという。

対象をそのまま再構成するのではなく、大胆に変形させている。構図的にも色彩的にも、人為的な工夫が見られる。構図は対岸の城を軸とし、手前の樹木や、右手の人家と対比させることで、遠近感を演出している。遠近感にこだわらないセザンヌとしては、この絵は例外的に遠近観を醸し出している。

色彩は寒色主体で、右手の家や手前の樹木が暖色系のアクセントとなっている。背後の山脈は、光と影を交互に重ねることで、微妙な物質感を醸し出している。セザンヌの作品のなかでは、異色の部類に入る。

(1896年 カンバスに油彩 65×81㎝ ロンドン、コートールド・コレクション)



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