壺齋散人の 美術批評
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アダムとイヴ:シャガールの恋人たち




「アダムとイヴ」と題したこの絵には、一見してキュビズムの影響が見て取れる。この絵を描いた当時の「ラ・リューシュ」には、キュビストのフェルナン・レジェも暮らしていたから、あるいはその影響を受けたのかもしれない。しかしこの絵は、キュビズムという言葉には収まりきれない要素をあわせもっている。例えば、アダムとイヴの頭上に覆いかぶさっているリンゴの木や、背後の空間に描かれている鹿やヤギの描き方などだ。これらの描き方は、キュビズムとは縁がない。

それにしても、受容するのが難しい絵だ。アダムもイヴも、多くの断片に細分化され、それらの間にあまり大きな関連が見られないから、フォルムとして安定したイメージに結びつかない。どんな考えからこんな具合に断片化したのか、その意図を呑みこむのはむつかしい。

フォルムの不安定さを、色彩の配置でカバーしている形跡は認められる。黄色の背景には紫を、グリーンには赤系統の色を組み合わせるといった具合に、補色による対比や明暗による対比を大いに活用し、色によってイメージを明確化させるという方法が意識的に取られているようにも思える。

この絵は、1913年のアンデパンダン展に出品されたが、その際には「木の下の二人」というタイトルが付けられた。それをつけたのはアポリネールである。アポリネールは、アンデパンダン展の評のなかでこの作品に触れ、「すばらしい色彩感覚、不敵の才能、装飾的な大作品」と書いた。たしかに、装飾的な要素は認められる。

(1912年、キャンバスに油彩、160.5×109cm、セントルイス美術館)





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