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コレラ流行の記録:ドーミエの風俗版画




「コレラ流行の記憶(Souvenirs du Choléra-Morbus)」と題されたこの石版画は、1840年に出版されたフランソワ・ファーブルの書物「絵入り医学のネメシス」の挿絵として制作されたもの。原文は、1832年にフランスで起きたコレラのパンデミックを解説していた。

このコレラは、1832年の三月末に確認され、六月半ばまでに一万人以上の死者をだした。水道に毒がまかれたというようなデマが拡散し、パリはパニックになった。それはともかく、このコレラ禍は、下水道など都市インフラの未整備にも理由があるとされ、以後都市基盤の整備が進んだという事情がある。

ボードレールは、この石版画を見て大いに感心し、そのパニック騒ぎの様子を、自身が体験した1848年の二月革命の騒ぎと比較した。いわく、「パリの空は、大天災や政治的大騒乱に当たっていつも示す皮肉な習慣にこの度も忠実にはればれとしている」。この石版画にも、地上の騒乱をよそに晴れ晴れとしたパリの空が描かれている。

(1840年 リトグラフ 書籍挿絵)



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