壺齋散人の 美術批評
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オリーヴの園のキリスト:ドラクロアの世界




ドラクロアは非常に早熟で、二十歳頃には教会から宗教画の注文を受けていた。「風格の聖母」とか「サクレクールの聖母」といったそれらの作品は、ラファエロなどイタリアのルネサンス絵画の影響を色濃く刻んでいる。「オリーヴの園のキリスト」と題したこの作品は、いかいもドラクロアらしい、ロマン主義的雰囲気を感じさせる逸品である。

テーマは、オリーヴ山でのイエスと三人の弟子たちとのやりとり。これは、最後の晩餐の後に、イエスが弟子たちに向って、私を裏切ったものがいると語る場面である。四つの福音書で触れられているが、天使が出て来るのはルカ伝だけである。ドラクロアは、そのルカ伝にもとづいて、イエスと三人の天使たちに焦点をあててこの絵を描いた。

同じテーマの絵としてはエル・グレコの「オリーヴ山のキリスト」が有名だ。エル・グレコの絵では、キリストと天使たちが後景に小さく描かれ、三人の弟子たちは前景に大きく配置され、眠った姿で描かれている。この絵では、三人の弟子たちのうち、一人が左端に寝入った姿で小さく絵描かれている。それと対比して、キリストと天使たちは大きく強調されて描かれている。

対角線上にモチーフを配置するところは、バロック的なものを感じさせるが、色彩の使い方はドラクロアらしいロマン主義的暖かさを感じさせる。ロマン主義は、ボードレールも言うように、色彩の豊饒さを特徴としており、バロックのような、劇的な陰影対比にはこだわらない。

なお、この天使たちには手本があることを、ドラクロア自身認めている。スルバランの「聖女アガタ」を念頭に置きながら描いたというのである。

(1826年 カンバスに油彩 294×362㎝ パリ、サン・ポール=サン・ルイ聖堂)




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