壺齋散人の 美術批評
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海老のある静物:ドラクロアの世界




ドラクロアの本領は躍動感のある人物主体の歴史画とか宗教画にあって、静物画はあまり描いていない。苦手だったわけではないが、静的な事物を描くことが、かれには物足りなかったのだろう。その中でこの「海老のある静物(Nature morte au homard)」は、彼の静物画の代表作である。

海辺の風景をバックにして、手前に海老やキジなどを大アップにして描いている。背景の描き方には、イギリスの水彩画の影響があると言われている。ドラクロアは、コンスタブルやボニントンと親交があり、彼らから影響を受けた可能性はある。この作品は1827年のものだが、ドラクロアはその前々年にロンドンを訪れ、コンスタブルらと親交を深めたというから、その折の印象をもとにして、この絵を制作したのだと思われる。

広漠とした海岸の風景をバックに、中景には狩りをする集団が描かれている。その集団が介在することで、前景の静物がいっそう引き立って見える。海老の隣に猟銃が置かれているところから、これは中景の狩人のものだと知れる。雉は彼らが仕留めたのであろう。

この絵の最大の売りは、背景と前景とのコントラストにあるが、それがかえって、遠近法の無視だとか言われて、批判の材料を与えた。ドラクロアにしては、実験的な作品と言えるのではないか。

(1827年 カンバスに油彩 80.5×106.5㎝ パリ、ルーヴル美術館)




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