壺齋散人の 美術批評
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母親と戯れる若い虎:ドラクロアの世界




ドラクロアは、20歳代の終わり頃に、虎やライオンなどの動物画に関心を示し、数多くのスケッチや石版画を制作している。パリにある王立植物園には、虎やライオンが飼われていたので、ドラクロアは友人の動物彫刻家バリーとともに出かけていって、観察したそうである。

「母親と戯れる若い虎(Jeune Tigre jouant avec sa mère)」と題するこの絵は、ドラクロアの動物画の代表的なもの。虎の親子の生態を、リアルに再現しているこの絵は、1831年のサロンに出展され、好意的な反応で迎えられた。

海辺の洞窟らしいところに、虎の母子が寝そべっている。タイトルにあるように、若い虎が母虎に戯れている構図である。この虎たちは、じっさいには檻の中にいるはずだが、ドラクロアは虎に相応しく、大自然のなかに置いたわけである。その大自然が海辺というのが面白い。虎は本来サバンナの草原に生きているものだ。

若虎といっても、かなり大きく、ほとんど母親とかわらない。その大きな図体で母親に戯れかかる姿は、ミスマッチのもたらすユーモアに満ちている。おそらくドラクロアは、虎を人間的なイメージで捉えなおしたのであろう。人間の場合、母親にいつまでも執着するのは、だいたいが男子だが、この絵の中の若虎は、雌のようにも見える。

(1830年 カンバスに油彩 130.5×195cm パリ、ルーヴル美術館)




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