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ヴァイオリンを奏でるパガニーニ:ドラクロアの世界




パガニーニは、ヴァイオリンの演奏技法に革命的な変化をおこしたヴァイオリニストとして知られる。また、作曲もした。かれの残したヴァイオリン曲は、超難度の演奏技術を必要とされている。そんなパガニーニの能力について、その演奏技術は、悪魔に魂を売り渡した代償として手に入れたものだという噂が立ったという。

ドラクロアがパガニーニとどのような親交があったのか、詳しくはわからない。ただ、ドラクロアは金のために他人の肖像画を描くことはしなかったので、パガニーニに好意を抱いていたことは考えられる。

「ヴァイオリンを奏でるパガニーニ(Paganini jouant du violon)」と題したこの絵は、舞台でヴァイオリンを演奏するパガニーニの姿を、スケッチ風に捉えたもの。パガニーニは、1830年3月9日に、パリのオペラ座でヴァイオリンの独演会を開いたというから、おそらくその時の印象をもとに描いたのだと思われる。

無心にヴァイオリンを奏でるパガニーニの表情には、悲壮感のようなものが漂っている。パガニーニは、梅毒の治療のために大量の水銀を飲んでいたという指摘があるから、この表情には、水銀中毒の影響が認められるのだと思う。そのためもあって、パガニーニは五十歳代で死ぬのだが、その遺体の埋葬を受け入れるところがなくて、防腐処理を施されたうえで、長い間さすらうはめになった。やっと埋葬されたのは、死後三十年以上たってのことである。

この絵には、そうしたパガニーニの数奇的な運命を感じさせるような鬼気がこもっている。

(1930年 厚紙に油彩 45.0×30.4cm ワシントン、フィリップス・コレクション)




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