壺齋散人の 美術批評
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ファンタジア:ドラクロアの世界




ドラクロアは、1831年12月30日から翌年7月20日までの約七ヶ月間、モロッコへ旅した。フランスの公式外交団モルネー伯爵の一行に随行するという形だった。特権的といってもよいこの随行は、ドラクロアの政治力を物語っているが、モルネー伯爵とは、個人的な親交もあったらしく、「モルネー伯爵の私室」という変った作品を描いている。

このモロッコ旅行は、トゥーロンから船でジブラルタル海峡に面した港町タンジールにわたり、そこから内陸へと向かったもので、ドラクロアは滞在中にスペインにも足を延ばしたりして、画題の発掘につとめた。この旅行中、ドラクロアは夥しいデッサン類と水彩画を残した。それらは七冊の画帳にまとめられ、後にドラクロアの創作の貴重な材料となった。

この旅行がドラクロアの画業に持つ意味は、さまざまな人々によって強調されてきた。ドラクロアはすでに歴史画の大家として名声を確立していたが、以後はオリエント趣味の豊かな作品を多数創作する。そうした作品には、各地の教会を飾ったものもある。オリエント趣味は、装飾と相性がよかったのだろう。

「ファンタジア」と題したこの絵は、モロッコからもどってすぐ取り掛かったもので、ドラクロアのオリエント趣味を盛りこんだ最初の作品として、記念碑的な意義を持たされている。副題に「モロッコ騎兵の模擬戦」とあるように、モロッコ騎兵の生態をモチーフにしたものである。

モロッコの騎兵が横一列になって突進し、かれらの前方には司令官らしき騎兵が雄たけびをあげているようである。ドラクロアはこの作品を、実際に見物した折のスケッチをもとに再現したようだ。

(1831年 カンバスに油彩 59×73cm モンペリエ、ファーブル美術館)




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