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部屋の中のアルジェの女たち:ドラクロアの世界




「部屋の中のアルジェの女たち」と題するこの絵は、モロッコからの帰途、アルジェに立ち寄ったさいの印象をもとに描かれたものだ。フランスに帰国したのは1832年の7月だが、この絵は1834年に完成し、その年のサロンに出展されて大きな評判を呼んだ。ドラクロアのオリエント趣味を代表する傑作である。

ドラクロアはかねて、イスラームのハーレムを見たいと思っていたが、モロッコではその願いはかなわなかった。ところがアルジェでは、それが可能になった。同行の友人たちが、ドラクロアの意を受けて方々あたったところ、アルジェのある船乗りが自分の家の中の様子を見せてくれたのだ。その部屋というのが、まさにドラクロアの見たがっていたハーレムだったのである。

そのハーレムでドラクロアは、沢山のデッサンや水彩画を描いた。水彩画の中には、作品としての高い完成度を示すものもある。フランスへ帰国して後、ドラクロアはそれらをもとにして、この絵を制作したのである。

ハーレムを思わせる濃厚な人間的雰囲気のなかで、四人の女たちが、それぞれ思い思いのポーズで寛いでいる。立っている黒人女はおそらく召使だろう。他の三人の白人女が、主人の女房と妾たちだと思われる。

構図的には、対角線上に人物を配し、色彩は暖色を主体にしてきわめて豊穣さを感じさせる。光も有効に使われ、明暗対比が強調されているが、バロック絵画のようにどぎつくはない。

なお、この絵は、ルノアールの「アルジェリア風のパリの女たち」やピカソの「アルジェの女たち」の連作に直接のインスピレーションを与えた。

(1834年 カンバスに油彩 180×229cm パリ、ルーヴル美術館)




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